04/10/11@ラスト・クリスマス

(第1話)
「小説神髄」というと、「これこそが究極の小説だ」という御高説をのたまったのかと思えば、そうではない。
それまでの文学書ってのは勧善懲悪となれば人はこのように正しく生きるべきで、悪事をしでかす者はその報いを受け、滅びる……みたいなのが正統だったのだろうか。

それを、「いや違う。小説ってのは聖人君子の道や、品行方正に生きる模範を示すものでもなく、世の中にいる尊いばかりでも美しいばかりでもない人間の姿を描写すべきこそ小説」と言い出したわけだったのだろう。


織田裕二の演ずるキャラがちょっとグズグズって感じの三十代なかばな男というのは構わない。
別にヒットしたからといって「振り返れば奴がいる」のような強気なプロフェッショナルや、「踊る大捜査線」のようなに組織の枠の中で誰かを守ろうとする好青年を演じ続けなければならないわけでもない。
かつての「ママハハブギ」なんかも、どっちかと言えば拗ねた小心者風なキャラだったから、その手なのも芸風の一つ。
それは良い。

矢田亜希子の演ずるキャラが何人もの男と同時に交際中というのも構わないし、MEGUMIが奔放と
いうのも悪いとは思わない。
伊原剛志の演ずるキャラにしても親父ギャグポンポンというのに面白いとか好感がもてるとかは思わないが、役作りとして出来上がっているとは思う。

そこまでは許容範囲だ。
その上でどんな物語をやるのかが、ドラマとしての見どころだと思う。だが……

(青井由紀)
 変則的な造りの2部屋という設定なのでそれをストーリー進行に盛り込むのはわかるが、強引に部屋に入ってくるとなるとボーダーライン。
 さらにブレイカーを落ちたので上げる際に自分の分しか上げない。
 ちょっと個性的な家電の使い方をするのはともかく。
 故意に他人はどうなろうと知ったことじゃないのではなく、単にわかっていなかったのだから悪意はない。
 ところが、それを咎めれられ、相手がどんな被害があったかを告げる前に「ビデオの録画予約」を問いかける。
 巧妙なものだ。「なかった」と言われたら、「それもないくらいなら特に迷惑はなかったんだろう?」と押せるし、「あった」と怒っていたら「ごめん、悪かった。でも、困ることってその程度なんでしょ?」となし崩せる。結果的に「実害の筆頭が、その程度のこと」になってしまってるのだから。
 文句を言われて謝るのでなく、その程度で他人に文句をつけた相手の非を指摘する。
 そこまで来ると、ちょっとねぇ……

(春木健次)
 冒頭はちょっと不器用っぽいことで視聴者の親近感アップをはかった主人公のようだった。
 やがて偶然にも拾って目にした写真一枚を(いわば)盗み見ることで隣に引っ越してくる女の過去がどんなだったか断片的ながら知り(元暴走族のレディース)、それを電話で知人に言いふらす。
 元ヤンというだけで一つのキャラなのは確かだが、それだけでその人間の全てを見透かしたように笑いながら。
 瞬間的には、これだけで「こんな野郎! とっとと死んじまえばいい」とすら思えるところだ。
 が、まぁ、連続ドラマの一回目でヒロインの一面を手短かに視聴者に印象づけるという作劇ということで許容範囲。
 その後の男が入れ代わり立ち代わりをのぞき見るのは、状況的にそうする方が普通だろう。
 だからといって、それを本人の前で「あんた、男づきあいをどうにしろよ」とばかり口にするかとなれば、それは物語の勢いだろう。
 それは先輩と後輩との再会が仕事の上での場であるのに、はしゃいでしまう……ことにも言える。
 ところが、今回のメインイベントが、不意にデジタルビデオの録画テープを見てしまう。

 仮に見覚えがなくても自分のテープかと思い、とりあえず再生してみる。
 それもまた当然のリアクションだ。
 再生を開始して、自分のものでないと気づく。
 そこで、やめれば良い……のだが、結局、そのままずっと見てしまう。
 ここまで来ると、ボーダーラインだ。
 人間、生きていれば暗黙の守秘義務に直面することはある。
 別に法的に無罪かとか、契約的に不履行かとかそういう問題でなく
 俗に言う「墓まで持っていく」べきことだ。
 しかしながら……このドラマの主人公というのは、その内容に対して(誤解しても仕方ないとはいえ)実情とは異なる意味に受けとって、本人の前であっさりとしゃべってしまう。
 いとも軽々しげに。
 他人の隠しごとを知ってしまいながら、それを黙秘し続けるのは後ろめたい。
 謝ってしまった方が気が楽だったりすることも少なくない。
 だからといって、それで相手が「不愉快に感じるか」「気分を害するか」「とにかく徹底的に傷つくか」とかいった配慮を除外してでも正直に謝罪するべき……というものでもないだろう。
 ……などと悪印象を覚えたわけだが、こうして自分がどんな風に感じたかを他人に伝えられるように、文章化して状況を整理してみると、
 また見方が変わる。
 見事に意図的な構成なのかしれない。
 「ビデオカメラで録画したテープを見ることで、隣の住人が“余命わずかかもしれない”と医師から宣告されたことがあるのを知ってしまう」
 これを第1話の核として固定する。
 固定してから、それが不自然でないように、それに至るまでのエピソードを整形する。
 「主人公は身のまわりの出来事を結構、軽はずみに口にしてしまう性分だ」
 「隣の部屋なのだが、一つの世帯を二分割しているようなものなので、何らかの機会にドアを開けることがあったり、持ち物が混入することもある」
 「主人公は他人の私生活の狭間が見え隠れすると、ついつい覗き見してしまうような男だ」
 「別れた女への未練を引きずってることからして、謝るべきことを謝らないと
 ささいなこととはいえ、そのまま1年たっても2年たっても罪悪感で気に病む性分だと自覚しているのかしれない」
 「それまでケンカ腰の衝突もあったので、自分に非があって相手の感情をやわらげようという場面ならばなおさら、おだやかで軽めな口調になる」

 「どちらかといえば自分が迷惑を被ったり、平穏を乱されたりしていた立場だという意識があれば、自分に落ち度があったことを自他ともに認めることによってフィフティフィフティの対等な関係が生じるかもしれないくらいの意識が潜在的にあるかもしれない。

  許され難いスレスレのエピソードを繰り返したあげく、ダメな言動が最後を飾ったのではない……のかしれない。

  このシーンだけを見たら「こいつイヤな野郎」と思われても当然な“隣人がビデオカメラで録画されたテープを再生し、返却する際にその内容についてとやかく言う”
  というのがあることを前提として、それを成立させるため視聴者的に許容範囲ギリギリなエピソードを盛りつけたとしたら?
  これはこれでプロのドラマ作りとみなして2話以降に注目すべきかしれない。

  ビデオは5年前の日付が書かれていて「手術の結果、この部屋に再び帰って来ることはないかもしれない」と告げているのだから、それを見て「良かったですね、病気なおって」と言いたくなるのだって良いのではないか?
 そうかもしれないのだけど、じゃあ、だからといって、しかし、ひとりでビデオカメラに向かって「離婚届ッ! いぇ~~~い!!」
 などとやっているもの哀しい姿を勝手に見て、しかも「過ぎたことだから良いじゃないですか」とばかり本人に面と向かって見た内容のことを話す男を主人公として容認してドラマを見続けていられるか? となるとね……

  否です。
 「こういうキャラもいる」という登場人物の一人だったら別に構わないんですけど、主人公として1クール見続けるとなるとね。

(新谷伍郎)
 見た目で主人公よりも年齢がやや上に見えるが、設定上はほぼ同年齢で、古くからの友人で現在は仕事の上で上司ということがわかる。
 それは、元友人が社員の部下の立場ながら場によってはタメ口な関係というよりむしろ、他人だったら遠慮して無理強いできないようなことでも“なぁなぁ”で人のいい主人公に押しつけてしまうことも多々ある関係らしい。
 主人公もバカで無能なのがコネで腰巾着というわけじゃなく、人望も能力もあって、主任として現場を仕切ってるかの様子。
 このキャラづけが野口五郎ばりに駄ジャレ連発な親父ギャグの年増独身男という感じなのは別に良い。
 外見で織田裕二よりも年上に見え、子供の数人もいる役どころもこなす伊原剛志ながらオッサンっぽく見せようとするならこのくらい必要かしれない。
 いわゆるイケメンというのとは違うだろうが、伊原さんの長身とスーツの着こなしで二枚目な青年実業家風になりかねない。
 これで、やや身勝手でアバウトなところもあるが人のいい経営者(取締役か?)と視聴者的に認知できた。
 ……はずだったのだが、どんでん返し。狙ってる秘書とのツーショットを一目見たら、そのままの勢いで即断即決。
 十年以上のつきあいの友人に何の事情も聴かないまま、いきなり香港転勤の辞令。

 これで、来週からドラマは香港を舞台にしたウィンタースポーツ業界の……というわけじゃないだろうから、どうせ次回で誤解が解けるだろうし、撤回されるだろうということで、視ている側にとっては大したインパクトはないのだが、新谷伍郎というキャラに対して“他人の都合を気にしないイヤな野郎”“身近にいたら迷惑な奴”という印象は、この第1話で強烈に焼きつけられてしまう。

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